Knothole House . Hiroshima
ICADA / Masaaki Iwamoto + Nariaki Chigusa . photos: © Nobutada Omote
Small house on a hill with views over the sea for a painter and his wife in Hiroshima.
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瀬戸内海を見渡す高台にある小さな住宅である。 施主は画家とその妻であり、生活と創作の場に多様性を求めて木造平屋の「離れ」の建設を思い立った。施主の希望を積み重ねると「離れ」の必要面積は30坪をこえたが、予算は800万円である。 この風変わりな条件から、大きな空間を最小限の材料でつくり、徹底的にローコストな住宅をめざすというコンセプトが生まれた。 平面計画・構造・温熱環境・内装などの側面に関して原理に立ち戻り、麻ロープの引張材、節穴だらけの薄板、布製の外壁といった型破りの材料が見いだされた。1960年代後半、イタリアの芸術家たちは一般的な画材を放棄し、生のままの工業製品や自然素材を用いた「アルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)」によって物と空間の本質に迫った。 同様に、この「貧しい建築」は批評的な視座を提供し、現代における豊かさの意味を問い直す試みである。 「薄い屋根」と「節の星空」 構造材を最小限とするために小屋組・登り梁・垂木を省略した薄い屋根をつくる。基本構造は厚み30mmの幅はぎパネルで、変形を抑えるために引張材を導入する。引張材には鉄よりも安価な麻のロープを用いる。幅はぎパネルには死節が多いという欠点があるが、これを逆手にとって節に直径20mmの穴を開け、一部をロープの固定部として利用する。屋根材は透明であり、無数の節穴から光が射し込み、天井面は星空のように輝く。 「布の外壁」と「端材の外壁」 居間は半透明断熱材を封入した布で覆い、車庫と軒下空間は牧畜用の巻上げカーテンで包む。倉庫等では屋根の巾はぎパネルの端材を外壁に転用し、アトリエは屋根だけがある吹放しの空間である。一様な温熱環境をつくるのではなく、プログラムと温熱環境の関係を見直し、最小限の断熱・防風対策を行っている。 「仕上げない内装」と「効率的寸法」 構造材・下地材・設備配管等を仕上げないことによって内装費を抑える。床は一部省略し、土のままにしている。また、市場に流通する建材のサイズを尊重し、材料を効率よく使用できる平面計画・断面計画としている。